相談しろ、私!モモンガに聞くのだ!

シャープ公式 · note(ノート)

この記事は、「

これからラボ

」のお題企画「

#社会人1年目のわたしへ

」に参加しています。

いける。自信ある。
めっちゃ調べて、すっごい考えて、なんども試した。
「私、ついに答えを見つけたかもしれません!」

うれしくてスキップしながら報告したら、
「うーん……これ、採用できない」
って言われたときの風船ペッシャンコ感よ、ああ。

入社して初めて、先輩のサブじゃなく、メインで任された技術開発。お題は、ドラム式洗濯乾燥機の乾燥性能を上げること。

これならいける!と確信した試作品。
なのに採用されなかった理由は……企業秘密なのでフワッとさせておきますが、量産化するにはまだまだ足りないところがあったと、今の私ならわかります。

でもでも、今回は、あんなに生きもののこと調べたのに!

そもそも、家電メーカーなのに、なぜ生きものを調べてるの!

何を作るの?と新入社員キョトン

シャープに入社し、新入社員研修も終わろうとする、ある日、私は配属先の発表を待っていました。

うー、ドキドキする。私、どんな商品を作ることになるのかな。

「それでは発表します」
「ランドリーなんちゃら部、佐藤花子さん」
「キッチンなんちゃら部、高橋太郎さん」
部署名はあくまでイメージです。

同期全員の名前が呼ばれた最後の最後、ようやく私の配属先が読み上げられました。

「要素技術開発部!」

……ん?
要素技術って、何、作るんだ?

「要素技術開発職」とは、研究開発部門の技術を製品に応用したり、これからの製品に数年以内に必要となる技術を独自開発する仕事です。

と説明を聞いたものの、商品を作ると思い込んでいた私の頭は「で、何、作るの?」とフリーズ。
口をポカーンと開けたまま、同期の子に誘われて他部署の飲み会に参加したら、そこの先輩が言いました。

「おもしろい部署に入ったね」

えー!おもしろいの!うれしー!!
がぜんヤル気が出た私を待っていたのは、未知の世界。

「うちの部署では、取り組むテーマのひとつとして、自然をお手本にした『ネイチャーテクノロジー』を開発しています。過去の事例や開発フローを勉強しておいてね」

ネイチャーテクノロジー?
自然の摂理に学ぶバイオミメティクス技術!

名前は知っていたし、ホームページも見たことがありました。

こんなサイトです(タップで遷移できます)改めて見てみると、生きものや植物から学んだ技術が、いろんな商品に応用されています。

アホウドリの翼がエアコンに。
蝶の羽根が扇風機に。
イネの葉が冷蔵庫に。
この商品にも、あの商品にも、自然から学んだ技術が入っていました。

知りたがりの子ども、家電を目指す

私が生まれ育ったのは熊本です。カマキリを飼い、ダンゴムシを集め、動物の飼育員に憧れてどうやったらなれるか調べる子どもでした。

父が化学の先生だったこともあり、子ども科学館や大学の子ども向け教室にもよく連れて行ってもらいました。

そんな子ども時代に、忘れがたい出来事があります。社会科見学で、水俣病患者の語り部さんから「無知ほど怖いものはない」という言葉を聞いたのです。

当時は、その重みをそれほどわかっていませんでしたが、「知るって、歩み寄ることなんだな」と子どもながらに思ったことを覚えています。

その後、将来の夢は、飼育員から飛行機の整備士へ。「整備士になるには機械がわかってないとダメだよね」と大学・院では機械工学を専攻。
やがて迎えた就活シーズンは感染症が広がった年で、航空業界も影響を受け、整備士の募集が見つからない……。

それでも機械は、食品でも自動車でも医療でも、多くの業界で使われています。

中でも「ザ・機械」といえば「家電」だ、と思っていた私。
家電って生活になくてはならないし、店頭でも目にするから「これ、私が作りました!」と言いやすい。恥ずかしながら、そんな「わかりやすく自慢したい欲」を受け止めてくれる家電業界に飛び込みました。

答えは、専門の外にある、こともある

ずっと「機械」を知ろうとしてきた私にとって、「自然」の視点で考えるネイチャーテクノロジーは、とにかく新鮮でおもしろい世界。

生きものの形って、とても合理的で効率がいいんです。環境に適応して進化したり、逆に淘汰されたり、生き抜くための知恵が形になっている。人間の発想ではパッと出てこない知恵が詰まってる。

一方で、生きものの種類の多さを思い、知るべきことの多さに圧倒されもしましたが、メラメラ燃える入社1年目の私は、「自然」について勉強しながら、先輩の技術開発をお手伝い。

そして2年目。「ドラム式洗濯乾燥機」の要素技術開発を、メインで担当することになりました。洗濯機の担当者からは「乾燥時間を短くするか、省エネ目標を達成してほしい」とお題が出ます。

後ろには頼もしい先輩が控えていますが、何をどう開発するかは、私の自由。

けど……どこから手をつけていいのか、わからない!
ドラム式洗濯乾燥機の構造さえも、よくわからない!

先輩や洗濯機担当の技術者に教えてもらいながら、ドラム槽への吹き出し口を変えてみる?ファンを入れるケースを変えてみる?などいろいろ試して、試験もやって……。

「やっぱり風かな」「それならファンだね」という結論に。ファンで風量を上げれば、「時短」も、時短による「省エネ」もいけそう!

だがしかし、今回のファンには制約がありました。
熱源の近くにあるので、樹脂では溶けてしまう。だから素材は板金。金属の板を使うこと。

え、急に、しばり強いな。

なぜなら板金は厚みを変えるのが難しい。
これまで先輩たちが開発したファンは、アホウドリやアマツバメなど、翼の厚みを骨や肉で変えて飛ぶ鳥をお手本にすることが多く、厚みが自由自在の樹脂製でした。

例えばエアコン室外機のファンなら、熱源から離れているので、素材が樹脂でもOK。

アマツバメの翼形状(厚み)を応用することで、静圧(空気を吸い込む力)をUP
でも今回は、板金しばり。
鳥はダメでも、自然界には他にも、今回つくりたいファンと共通点のある生きものがいるはずだ!

ヒントにしたのが「レイノルズ数」。
動く速さと体の大きさによって、まわりの空気や水の流れがどう変わるかを見る指標です。
私は、レイノルズさんを手がかりに、文献でさまざまな生きものを調べ始めました。

トンボは、バツ…
テントウムシも、バツ…
魚のヒレも、バツ…

行き詰まりかけた私の前に、救世主が現れました。

私を救った生きもの。その名はモモンガ

モモンガ羽根がないのに空中を飛ぶ生きもの、モモンガ。手を開いて飛膜を広げ、風に乗れば40~50m滑空し、100m飛んだ記録もあり。

この「モモンガ」と「ドラム式洗濯乾燥機のファン」のレイノルズ数が一致!まさかのモモンガと共通点!

飛ぶ生きものといえば、ムササビもいますが、ファンと比べてムササビは大きすぎた。

今回はたまたま合わなかっただけで、生きとし生けるものはすべて造形が素晴らしいので、また別の機会にお会いしましょう。

さて、小さくて、かわいいモモンガよ、君はどうして飛べるんだい?私はあらゆる研究論文を読み漁りました。

モモンガは滑空する時、飛膜が膨らんで凹面になり、風をとらえます。さらに、飛び立つ・滑空する・着地する時それぞれで、飛膜の形も、体の角度も、尻尾の向きも変わります。

モモンガの滑空にならったロボットまでありました。飛行機整備士に憧れていた私としては、もう見逃せません。

ただ、どの論文を見ても、一番知りたい飛膜の形まで記載がない。となれば、自分で追うしかありません。

YouTubeの動画をコマ送りでキャプチャーし、飛膜の形を解析。その形をファンに当てはめた試作品をいくつも作り、試験して、レビューして、改良を重ねました。

そして完成したのが「これなら、いける!」と確信し、「量産できません」と言われた試作品。えっ……と膝から脱力したものの、「他の方法を見つけてみせます!」と意気込んで、私は机に戻りました。

そこからがアリ地獄。解決策がまったく思い浮かばなくて、悶々として、どうしようどうしよう、と焦りまくって、もう無理だ、とドツボに転落。

お手上げになって、先輩にようやく相談すると、返ってきたのは「もっと早く相談してね。全然相談してもらっていいからね」という言葉でした。先輩っ!

先輩のアドバイスで、私はもう一度、モモンガを見直しました。注目したのは、尻尾です。
モモンガの尻尾は、ただ、かわいいだけじゃない。尻尾を上下に動かして体のバランスを取り、飛行中の姿勢を調整しています。

そこでファンの羽根の端を、モモンガの尻尾のように、上げたり下げたり、いろんな曲げ方で試験。

その結果、モモンガが木から飛び立った瞬間に、尻尾がピョンと上がっている形がベストだとわかりました。

完成したファンは、従来よりも風量UP!乾燥効率UP!洗濯~乾燥の消費電力も省エネ!

独特の形状で空気抵抗を抑えるので、気流の剥離が低減し、スムーズに風が送れるように!こうしてモモンガに学んだドラム式洗濯乾燥機が、商品として世に出ることになりました。

自由には、条件がある

モモンガファンの開発で私が思い知ったのは、「自由に考えていい」と言われても、「何でも自由に作っていいわけではない」ということ。
アイデアを出すのは自由でも、実際は構造もコストも量産性も考えなければいけません。

それでもなお、一人で抱え込み型の私は、その後も何度もパンクしました。相談したほうが早いし、違う立場や違う視点が入るほど良いものになると開眼したのは、入社3年目のことでした。遅。

研究開発の世界では、思い通りの結果が出なくても、それは失敗ではなく、次につながる知見です。抱え込んでパンクしたことも、きっといつか役に立つ時がくる。はず。

だが、言えるものなら、言いたい。
社会人1年目の私に告ぐ。

「相談しろ。人に聞け」

神戸どうぶつ王国で、知るを知り直す

それから2年後。私はモモンガに会いに、神戸どうぶつ王国を訪ねました。子どもの頃に憧れた飼育員さんから直接、モモンガや生きもののことを聞きたいと思ったのです。

目の前のモモンガは、巣箱からチョコンと顔を出し、木の枝を走り回り、壁を忍者のように逆さまに駆け降ります。とにかく速い。目で追うのがやっとです。

巣箱からチョコンあ、枝から枝へ飛んだ。飛膜、広げてます。長距離滑空も見てみたいな。

飛ぶ直前。滑空は一瞬で写真は撮れず……そう思っていると、飼育員さんが教えてくれました。
「前にいた個体は、部屋の端から端までサァーッと滑空したんですけどね」
うらやましいです。

「飛膜は、普段は全く見えないんですね?」
「おなかのところに蛇腹みたいに畳んで収納しています。毛繕いの時は、飛膜のお手入れもするんですよ。下から上に徐々に手でなであげて、舐めたりしています」と飼育員さん。

お話を聞いていると、飛膜の広げ方や畳み方から、尻尾や手の使い方まで、机上では見えにくかった特徴が、少しずつ立体になって見えてきました。

飛膜をもっと詳しく見てみたい、とつい思ってしまいますが、飼育員さんはモモンガにストレスをかけないよう、人間不信にさせないよう、細心の注意を払って接しています。

生きものに負担をかけないように、相手を見て、知って、少しずつ距離を縮めていく。その姿勢を見ていたら、子どもの頃に思った「知るって、歩み寄ることなんだな」という感覚を、ふと思い出しました。

園内には他にも、完全に球体になるマタコミツオビアルマジロや、

ネイチャーテクノロジー界ではおなじみのフクロウ

など、興味がそそられる生きものだらけ。微動だにしないはずのハシビロコウは、動いているところを運良く目撃できました。

ハシビロコウもいつか開発のヒントになるかもしれない飼育員さんならではの視点で、生きものの不思議さや賢さを教えてもらっていると、ものづくり魂がフツフツとしてきます。

ここから先は、私の仕事。

「家電が、こうなったら、いいな」という人の願いに応えてくれる生きものがいたら、真摯に教わり、家電として成立する形を探し続ける。
そうして初めて、シャープのネイチャーテクノロジーになるのです。

伝えるまでがモノづくり

ドラム式洗濯乾燥機に携わる仕事は、発売後も続いています。

開発の次は、広報フェーズ。ホームページの文章を考える。展示や店頭のPOPを考える。イベントに出て宣伝する。機械でも生きものでもない、新しい知識の習得。

自分が関わった商品が消費者の手に届くまで見届けられるのは、入社時は思いもしなかった、うれしい誤算。

さらに、ドラム式洗濯乾燥機は、うれしいご褒美をくれました。日本電機工業会「電機工業技術功績者表彰」優良賞(家電部門)を、洗濯機部門の人たちと一緒に受賞。

賞をいただいて、家電って、ただ作ればいい世界じゃないんだな、他社と競いながら良いものを世に出して「どうですか」と問う世界なんだな、と知りました。

名前が世に出るのも、なかなかの緊張感。もう逃げられない。私の言葉ひとつで、伝わり方が変わってしまう。責任感がマシマシです。

ネイチャーテクノロジーを自慢する、いえいえ、広めるイベントに行くと、また別の景色が見えてきます。

そこに来る子どもたちが、私にめっちゃ自慢してくれるんです。

「僕、これ知ってる!」
「この生きもの、こんな特徴があるんだよ」

ネイチャーテクノロジーのどこが刺さるか見られるし、私が知らなかった情報も教わるし、子どもとのふれあいは発見の連続です。

私も「知りたい!」で動いてきた人間なので、それを今、目の前で純粋に表現している子どもたちを見ると、「そうだよね」「原点は、そこだよね」と思います。効率を追いかける大人になっちゃいましたが、初心忘るべからず。

イベントに来場される大人は大人で、また違う角度から反応し、暮らしの困りごとや期待をどんどん口にしてくれます。

「家電の、こういう機能がもっとほしいんだよね」
「そこ、たしかに面倒だと思ってた」

これがまた、モノづくりのヒントになるんです。

子どもと話すと、自分の原点を思い出します。大人と話すと、次に考えるべきことが見えてきます。ネイチャーテクノロジーを「知らせる」ために行っているはずが、気づけばこちらが「知る」場にもなっているのです。

知ることは歩み寄ること

「自然」をまねするネイチャーテクノロジーに関わって、私は「自然」のすごさを知りました。敵かなわないな、と思いました。
「自然」から学べる知恵がこんなにたくさんあるのなら、いろんな人たちの「もっと、こうなったらいいな」の願いにも応えられるはず。

だから、もっと知りたくなる。もっと近づきたくなる。

「自然」だけじゃない。機械のこと、一緒に働く人のこと、家電を使う人のこと。知ろうとするたびに、その向こうに、自分よりずっと先をいくものがあると気づかされます。

ー 社会人1年目の私へ ー

何度もペッシャンコになって、それでも先が知りたくてジタバタしてたら、自分の弱さや伸びしろだって、見えてくるよ。

私よ、知りたかったら、歩み寄れ。

泥に沼って溺れる前に、相談するんだ。人に聞け。

もしこの記事が少しでもお役に立ちましたら、
ハートマークのスキボタンを押していただけると励みになります。
会員登録なしでも押すことができます。ぜひよろしくお願いいたします。

イラスト・写真はイメージです。
———
◆神戸どうぶつ王国
とにかく動物が近い!気づいたら隣に生きものがいます。大人もお子さんも、何度でも、何時間でもそこに居たくなる空間

画像をタップすると動物たくさん、公式HP◆関連記事
・なぜ「フクロウが羽ばたく送風機」を考えたのか

・遊びながら「生きもののスゴイひみつ」が学べる!

◆ネイチャーテクノロジーHP

———
▼参加企業の記事まとめはこちら